十月の歌

2019年10月の一首

度々の嵐の爪痕そのままに紅訪な麩時を違えず


10月になってもため息が出るほどにお暑い日が多く、季節 が狂ってしまったのではと思うほどの日々です。そして自然災害の多いこと、大型の台風が続けざまにやって来て、ひどい被害をもたらしていきます。でも昨日 のこと、ふと見上げた楓の大木の木の間がくれに、ちらちらと揺れる紅を見つけました。空気の中に籠められている僅かな変化を自然は敏感に捉えて、淡々と自 分を保っているのですね。





2018年10月の一首


とろとろとやさしき光庭に充つ石蕗の黄もまどろみており


9月から10月にかけて、間を置かず台風が日本列島に繰り返しやって来て、日本各地に大きな被害を残して去って行きました。中旬を過ぎる頃からようやく天候 が落ち着きはじめ、20日頃からは待ちかねていた紺碧の空が望めるようになりました。時期を遅らせてやってきた杜鵑、水引、石蕗、山茶花等が今を盛りと咲 き乱れています。紅葉もそろそろ始まりそう、残り少ない良い季節を、心ゆくまで楽しみたいものです。




2017年10月の一首

絶えまなく細雨しく昼下がり木の間隠れに秋進みゆく


こ の一週間、ずーっと雨模様、碧空は何処へ行ってしまたのでしょう。秋雨の庭もまた風情があって、好ましい。でも紅葉は美しい空にこそ映えるのです。まだ楓 は緑のまま、もう間もなく始まるはずの紅葉と碧空は足並みを揃えてほしいものです。寒くなる前のひととき、心地よい秋が訪れますように。
Halloween, 十三夜と夜のイヴェントが続くのですから。
楓の向こうで紅を見せているのは、ハナミズキ、楓は今年は晩生のようです。




2016年10月の一首 


神無月の時を違えし真夏日に秋明菊は雅やかなり


ようやく涼しくなるとの予想を覆して、10月になっても真夏のような日が時折やって来ます。
雨が多く湿気が去らぬ日々に、人間はへとへとです。

弱音の多い我々をよそ目に、木々も草花も慌てず騒がず淡々と、その季節の佇まいを見せて、私たちの目を慰めてくれています。

今年は秋明菊がことのほか良い表情のように思えます。一重もさることながら、八重花の見事な事、花色、花形まことに良く、その姿はすこぶる優雅、庭に出るのが楽しみな日々です。

楓がほんの少し彩を見せ始め、ピラカンサの赤い実が小鳥たちを引き寄せるのか、、庭に賑やかな囀りが終日絶えません。良い季節の幕開けです。




2015年10月の一首


西洋の祭りも数に織り込みて神無月染む橙色に


 十月も残りわずかになりました。楓の紅は今少し先のようですけれど、ハナミズキ、姫沙羅、ヤマボウシと照葉を見せ始め、ピラカンサ、南天、千両と木の実も秋色に染まって、今や秋たけなわです。

 いつの間にか日本にも浸透して、子供たちが楽しむようになった行事が秋冬にかけていろいろありますね。
10月のHalloweenもその一つ。元々はCeltic(ケルト民族)の宗教行事が今は仮装祭りのようになって、店先にはジャック・オー・ランタンばかりでなく、魔女や幽霊やドラキュラーなどの飾りつけもお目見えしています。

 日本人はクリスマス、ヴァレンタイン、イースター、マザーズディと何でも上手に取り込んで、日本の祭りと一緒に楽しめる器用な人種のようです。それだけ豊かということなのでしょうか?私もオレンジ色を謳歌する一人ではありますけれど。 





2014年10月の歌



慕わしき人のおもかげ映すごと瑠璃二文字はたおやかなりき



陽射しは煌めき、風爽やか、秋晴れの日の心地よさは、気持ちを和ませてくれます。
夏の終わりから初秋の日々、予想を越える豪雨や予期せぬ御嶽山の噴火のために多くの尊い命が失われました。日本という国が、どういう国であったかを再確認するような出来事でした。

 穏やかな気候の季節を迎えても、心のどこかに和みきれないものを感ずるのは、自然災害に晒された、ここ数か月の記憶が影響しているのでしょう。
そうした日々の中で、季節と共に訪れる新しい顔ぶれは、心に安らぎをもたらしてくれる有難い存在です。
庭に出てそぞろ歩きながら、目を留める花や実の中に、ふと懐かしい人や出来事に連なる顔ぶれを見つけ、心和み、時に心しめらせることもあります。

 瑠璃二文字は、母旅立ちの年に、始めて庭先に姿を見せ、それから今年で3回、毎年訪れてくれるようになりました。
母の人となりと花の姿、様、色が符合するようで、毎年心待ちにする花となりました。
二文字が韮を表わす女言葉であったとはついこの間、知りました。
因みに一文字は葱のことだそうです。
日本の言葉のゆたかさ、美しさを改めて思います。







2013年10月の一首



生まれ日に祝いの品を届けたし紫苑に憩う母の許へと




10月7日は母(姑)の99回目の誕生日でした。
賑やかで、楽しいことが大好きだった母へのハロウーン・リースを携えて、お祝いに行くつもりにしていたのです。
ところがその2週間前の早朝突然に、母は眠ったまま旅立ってしまったのです。
いくら思い直しても、心残りは消えません。淋しさばかりが募ります。
明るくてやさしかった母の周りにはいつも温かい空気が流れ、笑顔が絶えませんでした。
「貴女は私の大好きなお嫁さん」と私の頬を撫でながら囁いてくれた母の声が蘇ります。
気持を持て余しながら日が過ぎていきます。
七七忌は今月の末、昨日詠んだ歌を色紙にしたため、その日の墓前に供えます。母の許に、私の思いは届くのでしょうか






2012年10月

今月の一首




とき違え庭さき訪なふ彼岸花躊躇いもせず際立ちており




今年の夏の暑さは記録に残るものだったよ うです。
長く、暑く、水不足と過酷な条件が揃いましたから生き物全てが青息吐息でした。

気温が少し落ち着き、雨もやって来て、花達が活動を開始したのは、
9月も末になってから。

しかしお休み時間 が長かったものですから、花時がすっかりずれてしまいました。
彼岸花もご多分に漏れず、お彼岸には間に合わずじまい。

でも朱色の艶やかな曼珠沙華は、遅刻など意に介さず、ご覧のように辺りを払って凛としています。

彼岸花は縁起が悪いと言う方もいらっしゃいますけれど、私はこの花の毅然とした風情が大好きです。









2011年10月

十月の一首
 
 

秋桜花芯に蜂を抱きつつゆらりゆらりと風にまどろむ


絵に画いたような長閑な秋の日和です。
暑からず、寒からず、空はひたすら碧く、明るい日差しに進みゆくはなみずきの照り葉は透明感をいや増してい ます。
一年中で一番心地良い季節の到来に、心も体も浮き立っています。
庭を歩く回数が増えました。
穏やかな陽気に、花も木も虫たちも憩うています。金木犀が香り、庭の飛び石の上にトカゲの親子が日向ぼっこ し、花々に小さなニホンミツバチが行き来する、神無月の昼下がりです。

 

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