季節の贈りもの
10月の彩り
 長雨の後にやってきた台風18号が、落ち葉の絨毯を置きみやげにして走り去りました。金木犀のゆたかな香りを楽しみながら箒の手を動かします。高く碧い空に一筋の飛行雲が長く尾を引いて流れていきます。それを追いかけるように列を作って飛ぶ鳥の一群も見えます。きらめくような日差しは戻ってきましたけれど、さすがに暑さはもう戻っては来ないようです。台風が秋をもたらしたのかもしれません。垣根越しに見えるお隣の柿の実がオレンジ色に輝いています。

 
十五夜
 3日の夕暮れ時は雲が多く、月がなかなか顔を出してくれませんでした。でも諦めかけていた8時過ぎに雲がすっと切れて、眩いばかりの月が悠然と姿が現わしたのです。虫の声がにわかに大きくなったような気がしました。庭には常とは異なる幻想的な雰囲気が漂い、魅せられて動けなくなりました。まん丸に見えましたが、今月の満月は翌4日の十六夜の月とのことでした。

 
月がとっても青いから・・・
 夫の母は先日95歳になりました。今もいたって元気で、持ち前の明るさとユーモア溢れる会話とで周りを和ませ、楽しませてくれる母です。

 ボストンにいた頃には私たちを2回訪ねてくれています。既に80歳を越えていましたから、その都度義妹が同行しての渡米でしたが。2回目の訪米は10月始め、ちょうど今頃のことです。夕食の後に母が「私も夜遊びというものを一度してみたい」と言うのです。異論のある人は一人もいなくて、母、義妹、娘、私の女性ばかり四人で真っ暗な夜道(街灯というものがほとんどありません)を車を走らせ、ハーバード大に近い、チャールス・リヴァー沿いのホテルへ出かけました。そこの最上階でお酒を飲みながらジャズを聴くために。ウエイトレスが物も言わずに、ナッツの入ったガラスの器をボンと叩きつけるように置いて引き上げるのを「まあ何と愛想の無い娘じゃねえ」と呆れたり「ここは、なしてこないに暗いんじゃろう」と珍しそうに室内を見回したりしながら、うきうきと楽しそうでした。

 12時近くまでねばって外に出ました。母は大層気持が高揚していたのでしょう。「まだ帰るのはもったいない、少し歩いてみたい」と言います。アメリカでは散歩を除けば、駐車場から店までと家の敷地内以外を歩くことはほとんどありませんから、足の達者な母はうずうずしていたのでしょう。でもそんな夜更けに街灯も無い川沿いの道を歩いている人などは勿論一人もいません。第一ここはアメリカ、どんな危険が潜んでいるか分かりません。でも気分の良い晩でしたし、月が道を明るくしていましたし、酔いを醒ます必要もありましたからみんなの気持は一緒でした。「月がとっても青いから、遠まわりして帰ろ」と鼻歌など歌いながら、そぞろ歩いたのでした。

 その時空を見上げていた母が「アメリカは何でも大きいけえど、月まで大きい。重いから下のほうにあるんじゃろう」と呟きました。なるほどアドバルーンみたいな月が中空に浮かんでいるように見えました。そういえば、草叢には虫の声も、風に揺れるすすきもありませんでした。今虫の音に包まれて、天空に静まる月を見上げながら懐かしむ事々です。


 
10月の飾りつけ

玄関飾り棚

幽霊、魔女、黒猫、ジャック・オー・ランタン
Halloweenの定番です。

10月の玄関ショーケースから

ジャック・オー・ランタン

闇の住人達


 
Trick or Treat
 道から見える玄関、リビングルーム、ファミリールームに煌々と灯りを付け、ジャック・オー・ランタンにも火を入れました。7時を回った途端に玄関のチャイムが鳴りました。勢いよくドアを開けた私の目に大きなドラキュラーに抱っこした3歳くらいと思しき小さなお姫様が飛び込んできました。お姫様は大きな目を見開いて私を見つめたまま固まっています。「ようこそ」と迎える私。「何て言うんだっけ?」とドラキュラー。でもお姫様は強張ったまま。緊張しながら訪れた家の中から東洋人が現れて驚きのあまり言うべき言葉を忘れてしまったようです。ドラキュラーがお姫様の耳元に何やら囁きます。お姫様が蚊の鳴くような小声で「Trick or treat?」。「Of course I treat」と答えるとお姫様のあどけない顔にはじめて笑みが零れました。用意の大きな篭を「好きなものをどうぞ」と差し出します。赤い篭にはアメリカの子供達の好きなチョコレートスティック、ポプコーンやポテトチップス、グミキャンディーの袋などなど、黒い篭には日本からの到来もののどら焼き、月餅、塩煎餅、透明容器に入った金平糖などなど。お姫様は素早く小さな手に金平糖を掴み取り、ドラキュラーの胸にしがみつきました。次に現れたのは海賊キッド、髑髏、蝙蝠、中学生くらいの背高のっぽの3人組、この子達は迷うことなくチョコレートスティックを鷲掴みにして「Thank you, thank you」と言って走り去りました。次は顔を真っ白に塗ったおとなしそうな少年(何に化けたのは判明せず)と猫の被り物の少女。そしてその次はまたも片目の海賊とその手下の水兵。そして吸血鬼、キングコング、ニンジャ(多分)、箒木を持った魔女・・・・。この日は秋晴れの上天気で夜になっても気温が保ちましたから出足は上々。合計38人のお化けや怪物が訪ねてくれました。9時を過ぎるともう辺りはシンとしてどこの家も灯りを落としています。私も門口のジャック・オー・ランタンを取り込んで玄関の明かりを消しました。隣家の枯れとうもろこしの飾りが暗闇の中で魔女の長い髪の毛のように風に揺らいでおりました。ある年の10月31日、ボストン郊外レキシントンでの一こまです。 

ハロウィーンの日は何になる?

 娘は2歳の長男のハロウィーン・デヴュー用に、黒と黄色の縞模様に大きな羽のついた「bumble・bee」のコスチュームを整えておりました。娘は女王蜂にでもなって「bee」を連れ歩くつもりなのでしょう。ちょっと一緒に行ってみたい気持がします。いつも家でお化けを待っていた経験しかないものですから。娘の住むストーは、ボストン空港から車で1時間半ほど西に入った田舎町です。隣の家が林の中に埋もれて見えないような郊外の住宅地で、街灯もない真っ暗闇の中を歩いて次の家に行き着くのは容易なことではありません。お菓子を求めて家々を廻るお化け達にはきっと車で送迎をする親お化けがついているのでしょう。娘から聞いた話ですが、去年のハロウィーンの朝、自分の通う学校の教授室の前を通りかかると、中でドラキュラーや魔女達が大真面目に会議をしているのが見えたそうです。大人も一緒になって本気でイヴェントを楽しむ、そんな風潮をちょっと羨ましく思うときがあります。
 Halloweenはもともとケルト民族の宗教行事だったと聞いています。万聖節の前夜(hallows eve)、聖者たちが出てくる前に闇に蠢く者たちがドンちゃん騒ぎをするのだとか。ジャック・オー・ランタンはやはり闇の住人だったジャックが闇を彷徨うために作った提灯だそうです。でも生まれた時からその習慣の中で過ごしてきている人たちは、よそ者の私のようにいちいち行事を珍しがっていろいろ知りたがったりせずに、とにかく楽しむことに徹しているように見えます。もしみなさんがコスチュームを身に着けて、何かに化けるとしたら何になりたいとお思いですか? 

 
10月の玄関アプローチ

ハンギングのアスパラガスが夏の間にずいぶん繁茂しました。

8月に植え込んだ玄関周りの花壇の花は数が少なくなりましたけれど、まだこのように彩を残しています。植え込んだ頃よりずっと背丈が伸びて、ひょろひょろと咲いています。冬越しの花に植え替えるのは今月末になるでしょう。

10月の庭

 端境期というのでしょうか、雨にも祟られて、庭の宿根草の花数は少なく、紅葉には未だ少し早く、やや彩に乏しい10月始めの庭です。
 
照り葉はまだ「はなみずき」だけです。

草紫陽花

草紫陽花(白)

ほととぎす


紅茉莉花

マーガレット


薄が穂を出しました。木の実も少し色付いてきています。

10月4日写す

 
10月も中旬になりました。気候も定まり、心地良いお天気が続いています。日差しに応えるように少しずつ庭に彩が増えてきました。赤く色付いたピラカンサの実に小鳥達が魅せられているようです。

サザンクロス

金木犀

吉祥草


鈴なりのピラカンサの実

10月14日写す

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