初釜本懐石 

初釜を主催する亭主は、同じ日に招待客を茶懐石でおもてなしすることが多いようです。私の母が自分の茶室「知川庵」でお弟子さんの指導を始めましたのは1960年でした。それからの40数年間の毎年の初釜には、母は仕出しを一切使わず(体調の悪かった2回を除いて)、初釜の一週間前から準備をはじめ、献立を点て、買い物、料理と自ら全てを手掛けてきました。近年には義妹や私が手伝うようになっていましたが、90歳になり、さすがに自ら表面に立って切り盛りする自信が無くなったからと2年前に本懐石を止めました。ここに載せましたのは、2003年に93歳で旅立ちました父の追善初釜での母の献立です。かっては父が、初釜の最強の担い手でしたから、母の思いも一入だったに相違ありません。この日のお客様は13名、お運び、おもてなしは母、義妹、私、娘の4人、裏で定まった流れに添って、常に温かいものは温かく、冷たいものは冷たくと気配りし、見栄えよく盛り付けた料理やご飯、御燗したお酒等々を滞りなく供し、後片付けまで担った裏方は弟達、夫、甥の5人でした。長い間、一家総出の年中行事の一つでしたから、忙しさの中にも和気藹々の温もりがあり、忘れ難い思い出が沢山あります。

 
前半の料理運び出しの順序

@招待客が席に着いた頃を見計らって
整えた懐石膳を亭主が正客から順に
運び出す。
A亭主が銚子と引き盃を持って
出て、正客からお酒を勧める。
Bご飯を少し入れた、飯器を出す。
C椀盛を運び出す。
D温酒:亭主側が招待客一人ずつ
にお酌をする。
E二度目の飯器を出す(この時は
ご飯を充分に入れる)。
F汁の替えを出す。
G強肴を出す。
H進肴と寄せ盃を出す


 
 

手前左
飯椀(ご飯が手前に少しだけ入れてあります)
手前右
汁椀 汁の実:さいころ豆腐と春芹
お向こう、盃
お向こう

いかそうめん湯通し、きゅうりせん切り、
菊(黄、紫)、飛び子、わさび添え、三杯酢


 
 

椀盛

蕪のえびしんじょ詰、蒲鉾、たらの芽
結び三つ葉、生麩花、柚子

 
 
強肴

右回り:セレベス、くわい、しいたけ含め煮、雪の羽衣茸、 
小茄子唐揚げからし漬け、中央:山うど煮びたし


 
 
進肴その1

手前から:たらの芽の唐揚げ、とこぶし
粒雲丹の蒲鉾ばさみ、紫蘇敷き

進肴その2 

6種の茸の下ろし合え


 
 
寄せ盃

来客に好みの盃を取っていただき、亭主がひとりずつに注いで廻ります。


 
 
 
後半の料理運びの順序

I三度目の飯器を出す。
J焼物を出す。
K一口吸い物を出す。
L亭主、八寸と千鳥の盃
を持って出る。(千鳥とは
亭主、正客、亭主、次客と
千鳥足のように、盃が行き
来するとの意味)
M香の物と湯桶を運ぶ。
Nお膳を下げる。
O主菓子を運ぶ。


 
 
焼物:鰤

 
 
一口椀
実:とんぶり

 
 
八寸

海のもの:河豚蒲鉾
里のもの:いちじく
山のもの:金柑
亭主がお客様一人ずつの分を
懐紙に取り分けて、手渡します。


 
 
湯桶(右)、香のもの

湯桶にはおこげ煎餅をくだいて塩をし、湯を注いで
あります(煎り米でも良い)。銘々が取り置きして
おいたご飯に、この湯をかけて、湯漬けにし、香の
ものと共に懐石の仕上げをします。

香のもの

漬物三種:奈良漬、大根酢漬、大根葉添え





 


 
 
主菓子:鶴の巣篭り

(懐石後の濃茶用のお菓子です)

                                                                                 
撮影:謙治郎
                                                                                               
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